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遺言

遺言書作成の必要性

一般の家庭においても、相続が発生した場合には遺産の分配を巡って思いがけない紛争に発展することもあります。相続に関する紛争を未然に防止し、かつ、遺言者の意思を実現するためにも遺言書を作成しておきましょう。

遺言の主な機能

遺言には主に次の機能があります。遺言は判断能力がない状態では作成できませんので、お元気なうちに作成しておくことをお勧めします。一度作成した後でも財産状況や気持ちの変化により何度でも遺言書は作成し直せます。

相続財産の帰属先や帰属割合の決定
法定相続分とは異なる割合での相続財産の分配、相続人以外の第三者へ財産を与える遺贈や、団体への寄付等ができます。
身分に関する事項
推定相続人の廃除(一定の事由がある場合に相続人から除外することを家庭裁判所に請求する制度)とその取消、子どもの認知、未成年後見人・未成年後見監督人の指定をすることができます。
遺言執行者の指定及び報酬の決定
遺言に基づく相続手続きを円滑に行うために、遺言執行者を指定することができます。例えば、預貯金がある場合は、遺言執行者を定めておくと、相続人全員ではなく遺言執行者単独で預貯金の払戻し手続きができます。遺言執行者には、相続人、受遺者でもなることができます。
祭祀財産の承継者の指定
祭祀財産には、家系図、位牌、仏壇、お墓等があります。遺言で指定がない場合は慣習に従って承継されることになりますので、祭祀財産の承継者を明確に決めておくことができます。
信託の設定(遺言信託)
遺言者(委託者)が、信頼できる人(受託者)に対して、利益を受ける人(受益者)のために特定の財産(信託財産)を特定の目的(信託目的)に従って管理・運用・処分をしてもらうよう遺言でお願いするものです。例えば、遺言信託を利用することにより、遺言者の死後に残された高齢の配偶者や障がいのある子ども等の代わりに財産管理をすることを信頼できる人にお願いできます。
付言事項
相続財産の帰属先や配分割合を決めた理由を記載することによって、相続人間の納得が得られやすくなります。また、家族に対する感謝のメッセージ等も記載することができ、残された遺族への思いを伝えることができます。

遺言の作成が特に必要な場合

遺言がなければ、相続人全員で遺産分割の話し合いをする必要があります。相続人全員が遺産分割に合意できなければ、家庭裁判所で遺産分割調停(審判)の手続きを行うことになってしまい、多くの時間と労力をかけることになります。
遺産分割で問題が発生するような次の場合には特に遺言の作成の必要性が高いといえます。

相続人が全くいないとき
被相続人の財産の清算のために相続財産管理人を選任する必要があるため。
夫婦の間に子どもがいないとき
残された妻(夫)と、亡くなった夫(妻)の両親又は兄弟姉妹と遺産分割の話し合いをする必要があるため。
再婚をし先妻との間に子どもがいるとき
先妻の子と後妻(後妻との間に子どもがいればその子も)の間で遺産分割の話し合いをする必要があるため。
内縁(事実婚)の妻に遺産を譲りたいとき
内縁の妻には相続権がないため。
世話をしてくれた息子の嫁に財産を分けたいとき
息子の嫁には相続権がないため。
家業を継ぐ後継者に事業用財産を継がせたいとき
事業用財産を相続人で分割してしまうと事業が成り立たないため。
相続人の中に行方不明者がいるとき
行方不明者について不在者財産管理人を選任する必要があるため。

法定相続分と遺留分

法定相続人と法定相続分
法定相続人」とは、民法という法律で定められた相続人のことで、配偶者は常に相続人であるほか、第1順位、第2順位、第3順位の順に相続権があります。例えば、配偶者がいるが子どもがおらず、両親や祖父母が既に死亡している場合は、配偶者と兄弟姉妹が法定相続人となります。
法定相続分」は、相続人の取り分の割合です。
遺留分
遺言書により、法定相続分とは異なる割合で財産を分配することも可能ですが、兄弟姉妹を除く法定相続人には少なくともこの割合は相続分の請求ができるという「遺留分」が最低限保障されています。これは、遺留分を侵害する遺言が無効になるというものではなく、兄弟姉妹を除く法定相続人に遺留分を請求できる権利を保障しているものです。相続時のトラブルを避けるためにも、遺留分に配慮した遺言書を作成することが好ましいです。

法定相続分と遺留分の割合

法定相続人 法定相続分 遺留分
配偶者のみ 1 1/2
配偶者+
子ども等直系卑属(第1順位)
配偶者 1/2
直系卑属 1/2
1/4
1/4
配偶者+
両親等直系尊属(第2順位)
配偶者 2/3
直系尊属 1/3
1/3
1/6
配偶者+
兄弟姉妹(又は甥姪)
(第3順位)
配偶者 3/4
兄弟姉妹(又は甥姪) 3/4
1/2
なし
子ども等直系卑属のみ 1 1/2
両親等直系尊属のみ 1 1/3
兄弟姉妹のみ 1 なし

遺言の種類

遺言の方式には主なものとして、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

自筆証書遺言

概要 遺言者が全文、日付及び氏名を自書し、押印して作成。
※他人に書いてもらったり、ワープロ、ビデオ等による作成は無効。
保管場所 自身で保管。
破棄、偽造や変造の恐れあり。
証人 不要。
→遺言の存在と内容を秘密にできる。
家庭裁判所の
検認手続き
必要。
費用 不要。
方式の不備 方式が厳格に決まっているため、方式不備により無効となる危険性あり。
その他 いつでもどこででも作成可能。
方加除訂正方法も厳格に定められている。

公正証書遺言

概要 証人2名以上の立会いの下、遺言者の遺言内容を確認した公証人が作成する遺言に遺言者、証人及び公証人が署名・押印をして作成。
保管場所 原本は公証人役場で保管。
破棄、偽造や変造の恐れなし。
証人 2名必要。推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族(両親、子ども)等は、証人になれない。
家庭裁判所の
検認手続き
不要。
→直ちに遺言内容の実現が可能。
費用 必要(相続財産の時価や財産をもらう人の数による)。
方式の不備 公証人が関与するため、方式不備の心配なし。
その他 病気等のため公証人役場にいけない場合は公証人が出張して作成可(出張手数料加算)。
口が聞けない人や耳が聞こえない人は筆談や手話通訳を介して公証人に意思が伝えられれば作成可。

※「検認」とは、相続人に対して遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
※満15歳以上であり、意思能力があれば遺言を作成することができます。
※2人以上が共同して遺言をすることはできません。