事業承継

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事業承継の意義と重要性

日本に起きている経済・社会構造の大きな変化として、人口の減少と少子高齢化社会の到来があります。今後、会社の社長や個人事業主についても高齢化が進展し、引退を決断する経営者の数は増えていきます。引退を決断した場合は、これまで営んできた事業を引き継ぐ「事業承継」か、後継者不足や経営環境等を踏まえ事業を終了する「廃業」かの選択を行うことになります。

事業承継は、経営権、財産権、経営理念・ノウハウ等の知的資産を後継者に承継する必要があり、承継がうまく行かなければ廃業の可能性もあります。事業承継を円滑に進めるためには、十分な事前準備が必要です。

事業承継先

  • 親族内承継(子ども等親族への承継)
  • 親族外承継(従業員等への承継)
  • M&A(第三者へ事業売却)

親族内承継は、少子化や職業選択の多様化から減少傾向にあり、親族外承継やM&Aとなるケースが増加しています。

後継者を誰にするかが決まっている場合でも、具体的な事業承継方法や事業承継時期が決まっていないことが多いと思われます。後継者候補者から事業承継の計画を切り出すのは困難であることが予想されますので、現経営者が率先して後継者を選択し、今後の会社の経営の展望を含め長期的な事業承継計画の作成を行う必要があります。

事業承継計画の作成に当たっては、①現状の把握(会社の現状、株主・親族関係、経営者個人財産)、②会社の中長期的な経営計画(将来の見込み)、③後継者候補者の選定・後継者の育成方法、④経営権(株式)の承継方法・時期、⑤事業用資産、信用等の経営資産の承継方法・時期、⑥相続税対策(相続税額の試算・納税方法の検討)を盛り込む必要があります。

事業承継の流れ

事業承継先別の
問題点とその対策方法

事業承継先別の一般的な問題点と
その対策方法を挙げています。

親族内承継

後継者が経営者としてはまだ未熟であるため、
経営を任せることはできない
会社内外での後継者教育
拒否権付種類株式(黄金株)の活用
後継者に経営権(株式)や事業用資産を集中させたい
生前贈与、遺言書による遺産分割の指定(遺留分に配慮)
代償分割資金としての生命保険の活用
経営承継円滑化法による民法特例(生前贈与株式を遺留分の対象から除外・生前贈与株式の評価額を予め固定)の活用
議決権制限株式や相続人等に対する株式売渡請求制度の利用
遺言代用信託による後継者への議決権行使の指図権の集中
経営者及び経営者親族以外に株式が分散している
経営者、後継者又は会社が株式を買い取り
相続人等に対する株式売渡請求
特別支配株主の株式売渡請求
後継者に贈与税や相続税の納税資金がない
贈与税の非課税枠を利用した暦年贈与の実行
経営承継円滑化法による贈与税・相続税の納税猶予制度の活用
生命保険の活用
株式評価額を引き下げたい
役員退職金の支給
生命保険の活用

親族外承継

親族以外を後継者とするため、
現時点で経営権を完全に委ねることに不安がある
拒否権付種類株式(黄金株)の活用
会社内部、取引先や経営者親族の理解が得られない
経営計画を明確にし、公表する
後継者候補者が事前に役員等として社内で活動する
配当優先付議決権制限種類株式を経営者の親族に相続させて配当等の財産権を残す
借入金の個人引継ぎが困難
債務の圧縮に努める
後継者の債務保証軽減に向けた金融機関との交渉
後継者の負担に見合った報酬の確保
後継者による自社株式・事業用資産の買取が困難
株式会社日本政策金融公庫の事業承継に関する制度融資等を利用

M&A

自分の会社をできるだけ高く買ってもらいたい
会社の知的資産の再確認
業績の改善、無駄な経費支出の削減
事業承継先が見つからない
事業引継ぎ支援センターによる事業の引継ぎ先企業との引き合わせ(マッチング)、契約締結に向けた支援(熊本県では熊本商工会議所に設置)

司法書士法人エントラストによる
事業承継支援

司法書士法人エントラストでは、後継者の役員就任登記、種類株式の発行登記、M&Aに伴う会社登記、遺言書作成支援、事業用不動産の名義変更登記等を行っています。また、税理士等の各士業とも連携して、経営者の事業承継を支援いたします。

Q&A

  • Q

    事業承継で後継者が確保すべき株式数は
    どのくらい必要ですか。

    定款変更、合併、解散等一定の重要事項については、株主総会の特別決議が要求されています。特別決議は原則として、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します。
    したがって、後継者及び後継者に賛同する株主で議決権株式の3分の2以上を確保しておくのが好ましいと言えます。
  • Q

    「拒否権付種類株式(黄金株)」とは何ですか。

    株主総会や取締役会で決議すべき一定の事項について、別途、ある種類の株式を持つ株主による種類株主総会の承認を要する旨を定款に定める制度です。
    拒否権付種類株式を発行した場合は、定款の定めに従い、株主総会等の決議に加えて拒否権付種類株主による株主総会決議が必要となります。例えば、先代の経営者が会社の存続に関わるような重要事項の決定につき拒否権を行使できる拒否権付種類株式を持つことによって、後継者の経営を見守ることができます。
  • Q

    「配当優先付議決権制限種類株式」とは何ですか。

    他の種類株式より優先して配当を受け取れる代わりに株主総会において議決権の行使ができない種類株式を定款に定める制度です。後継者以外の相続人に配当優先付議決権制限種類株式を相続させ、後継者に議決権のある株式を相続させることにより後継者が安定的に経営を行うことができます。
  • Q

    事業承継税制における「相続税の納税猶予制度」とは何ですか。

    後継者が納税すべき相続税額のうち、相続等により取得した議決権株式(相続開始前からすでに保有していた議決権株式等を含めて、その会社の発行済議決権株式の総数の3分の2に達するまでの部分に限る)に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予することができます。
    後継者が株式を死亡の時まで保有し続けた場合等一定の場合には、猶予された相続税額が免除されます。
  • Q

    事業承継における「遺留分に関する民法の特例」とは何ですか。

    一定の要件を満たす後継者が、遺留分権利者全員との合意及び家庭裁判所の許可等所要の手続きを経ることによって、生前に贈与された自社株等を遺留分算定の基礎財産から除外することができ(除外合意)、また、生前贈与された自社株等を遺留分算定の基礎財産に算入する際の評価額をあらかじめ固定することができます(固定合意)。